要点
遺言書で祭祀承継者(お墓を継ぐ人)を指定しておくのがもっとも確実な方法ですが、墓じまいや永代供養の希望は法律上の拘束力を持たない「お願い」にとどまります。承継者の指定と、付言事項として書き添える希望を組み合わせるのがいちばん伝わる書き方です。
「自分が亡くなったあと、お墓のことで子どもたちに苦労させたくない」「墓じまいをして永代供養にしてほしいと伝えておきたい」。ご自身のお墓の行き先を、生きているうちに決めておきたいというご相談が増えています。その気持ちを確実に残す道具が遺言書です。この記事では、遺言書でお墓について決められること・決められないこと、書き方の種類と選び方をご説明します。
はじめに言葉の整理です。「遺書」は家族への気持ちを書き残す手紙で、法律上の効力はありません。「遺言書」は民法の決まりに沿って作る文書で、書き方を守れば法律上の効力を持ちます。お墓の承継者を確実に決めたいなら、遺言書のほうが必要です。
遺言書で決められること
祭祀承継者の指定はできます。 お墓や仏壇などの祭祀財産は、相続財産とは別に「祖先の祭祀を主宰すべき者」が受け継ぎます。民法は、亡くなった方が承継者を指定していればその人が承継すると定めており、遺言書での指定はもっとも確実な方法です。「長女の○○にお墓を継いでもらう」と一文書いておけば、相続人同士で「誰が継ぐか」を争う余地がなくなります。
費用の手当てもできます。 お墓を継ぐ人は、墓じまいをするにしても維持するにしても費用を負担します。その分、遺言で預貯金を多めに配分する、あるいは「墓じまいの費用に充てるため○○円を承継者に相続させる」と書いておくと、他の相続人との公平感が保てます。ただし、配偶者や子には遺留分(最低限受け取れる割合)があるため、極端な配分は争いの種になります。
遺言書では「お願い」にとどまること
墓じまいをしてほしい、○○の永代供養墓に納めてほしい、という希望は、法律上の拘束力を持ちません。 埋葬の方法やお墓の処分は、法律が遺言で決められると定めた事項に含まれていないためです。ただ、遺言書には「付言事項」として希望や気持ちを書き添えることができ、実務ではこの付言事項が家族の判断のよりどころになります。「お墓は私の代で墓じまいをして、ご先祖のご遺骨は○○寺の永代供養墓へ移してほしい。費用はこの遺言で長女に多く残した分から出してほしい」といった形で、承継者の指定(拘束力あり)と希望(付言)を組み合わせて書くのが、いちばん伝わる書き方です。
遺言書の3つの作り方
自筆証書遺言。 全文と日付、氏名を自分で手書きし、押印します。財産目録の部分だけはパソコンで作ったものや通帳のコピーでもよいことになっていますが、その各ページに署名と押印が要ります。費用がかからない一方で、書き方の不備で無効になる例が少なくありません。また、亡くなった後に家庭裁判所の「検認」という手続きが必要です。
自筆証書遺言の法務局保管制度。 2020年7月から、自筆証書遺言を法務局に預けられる制度が始まりました。手数料は1件3,900円で、本人が法務局へ出向いて申請します。預けた遺言書は検認が不要になり、紛失や改ざんの心配もなくなります。自分で書いた遺言書を使うなら、この制度を使うことをおすすめします。
公正証書遺言。 公証役場で、公証人が本人の意思を聞き取って作成します。証人が2人必要で、原本は公証役場が保管します。手数料は財産の額に応じて決まります。費用はかかりますが、書き方の不備で無効になる心配がなく、検認も不要です。承継者の指定や費用の配分など、内容に重みがある場合は公正証書遺言が安心です。
遺言書だけでは足りないもの
遺言書は亡くなった後に開かれる文書です。生きているうちにお墓の情報を家族が知らないと、そもそも手続きが始められません。遺言書とあわせて、次の情報を一枚にまとめて家族に渡しておいてください。
- お墓の所在地と区画の番号、墓地管理者(寺院・霊園)の名前と連絡先
- 墓地の使用者の名義と、使用許可証や契約書の保管場所
- 年間管理料の金額と支払い方法
- 埋葬されている方の氏名と、分かる範囲の埋葬時期(改葬許可申請に必要です)
- 檀家になっている寺院とのつきあいの経緯
法律上の効力はありませんが、この一枚があるだけで、残された家族の手間は大きく減ります。エンディングノートに書いておくのも同じ効果があります。
専門家に頼める範囲
遺言書の文案作成や公正証書遺言の原案づくり、証人の手配は行政書士に依頼できます。相続人の確定に必要な戸籍の収集もあわせて頼めます。財産に不動産が多い場合は司法書士、相続税の見通しが必要な場合は税理士、相続人の間にすでに対立がある場合は弁護士の領域です。
墓じまい案内では、遺言書や生前の準備に対応できる専門家(行政書士など)を無料でご紹介しています。LINEや相談フォームの「相続・遺言書・エンディングノート」の質問で「遺言書を作りたい」を選んでください。個別の法律判断はいたしませんが、何をどの順番で用意すればよいかの整理からお手伝いします。